FASHION / NEWS

ヴァレンティノ初。次元と時空を超えて表現する、アレッサンドロ・ミケーレによるオートクチュールコレクション【2025年春夏クチュール】

1月29日(現地時間)、今シーズン最大の目玉とも言えるヴァレンティノVALENTINO)のショーが開催。アレッサンドロ・ミケーレによるメゾン初のオートクチュールコレクションとなった「VERITIGINEUX」は、次元や時空を旅するミケーレとメゾンの無限の可能性を感じさせた。
Photo: Courtesy of Valentino

「震えが止まらない」。急いで出口に向かう途中、一緒にいたファッションエディターが息を切らしながら言った。私たちはたった今、アレッサンドロ・ミケーレによるヴァレンティノVALENTINO)のショーを観たばかりだ。

Photo: Courtesy of Valentino

48人のモデルが、暗転したランウェイをストロボライトだけを頼りに歩いたフィナーレ。クリノリンやケープ、髪がなびき、ひとつひとつの動作がスローモーションのように展開される。ミケーレのオートクチュールデビューは、私が知るファッションショーとはわけが違う。ショーというよりは映画のような心理劇で、誰かの妄想に飲み込まれたみたいな感覚に陥る。

「ずっと、頭の中で竜巻が起きている感じでした」とショー前、ヴァンドーム広場にあるヴァレンティノの静かなクチュールサロンでミケーレは語った。「挙げきれないほど色々なものを、夢中で追い求めていました。いちローマ人として私自身が偏愛していることを掘り下げ、そこからヴァレンティノのアーカイブをあさり、再び自分が偏愛する歴史的な衣装に目を向けました。歴史的な衣装は私にとってファッションの理想形で、人間の感覚や経験を超越する世界のファッションなのです」

Photo: Filippo Fior/launchmetrics.com/spotlight

過去をさかのぼることは、今シーズンのオートクチュールコレクションを特徴づけるテーマとも言える。しかし、ミケーレはほかのどのデザイナーよりも、過去を深く掘り下げた。手作業で仕立てられた複雑なルックの背景にあるのは、文学、美術史、オールドハリウッドの世界から得たあらゆるインスピレーション。ヴェネツィア・カーニバル、中世の修道女、マリー・アントワネット、ジョージ王朝時代のパニエスカート、ヴィクトリア王朝時代のクリノリン、サイレント映画のスターや重鎮、詩人や理論家の名前など、それぞれのルックの着想源が各モデルの登場とともに、セットに赤いデジタルフォントで流れた。

その中でもヴァレンティノのアーカイブと、ローマにあるメゾンの現役のクチュールアトリエが、ミケーレの創作の主軸となったのは言うまでもない。ヴァレンティノは“ブランド”ではなく“メゾン”だと強調する彼は、その創業者が掲げた「美しく、エレガント、そして絢爛であること」という理念を頼りに制作に挑んだ。そんなメゾンの卓越した職人技を自由に駆使する立場にあると気づいたミケーレは、軽い眩暈を覚えた。「Vertigineux」。「眩暈」とも訳せるこの単語をそのままコレクションのタイトルにした。「際限ない自由があると、自分が進むべき道がわかりにくくなります」と語るミケーレは、制作過程において多くのことを学んだ。「アトリエの職人たちは、『完璧』以上のもの、見る者を魅惑するものを求めているんです」

Photo: Courtesy of Valentino

セットに投影された赤字の羅列には、ルックのインスピレーション源となった過去のシーズン名もあった。トランペットスリーブの精緻なプリーツ、フローラルプリントドレスの複雑なラッフル、無数のリボン、フリルがあしらわれたブラウスのプラケット、ビジュー付きの格子刺繍、寸分の狂いもないプリンセスコートのカット。過去のコレクションに見られる、ヴァレンティノらしい独特な技巧は、このようにあらゆるディテールに落とし込まれていた。そこに巨大なクリノリンやパニエで、ミケーレは独自のひねりをプラス。15世紀、17世紀、ブルボン朝時代とさまざまな時代を融合させた。

Photo: Courtesy of Valentino
Photo: Courtesy of Valentino

ほかにもポール・ポワレやシャルル・フレデリック・ウォルトなど、あらゆる時代のクチュリエ、さらにはカトリック教会をオマージュ。ヴァレンティノのシンボルカラーである赤も、ボレロと司祭枢機卿(しさいすうききょう)を想起させるモアレ加工のローブに取り入れられた。「子どもの頃、街中で見かけた聖職者が纏っている服が、私にとってはこの世のものとは思えない、最も美しい紳士服でした。ローマではレストランや市場など、至るところで聖職者を見かけるんです。皆普通に食事をしたりしていて、タバコだって吸っています。そういう意味で、ローマはとても不思議な文化の街です。(フェデリコ)フェリーニが見たのと同じ光景を、自分は見ているのです」

「私はクチュリエではありませんし、自分をクチュリエだとも思っていません」とミケーレは笑う。「想像力が豊かな人。それが私です」